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「囚人のジレンマ」と輪廻転生

ロシアがウクライナへの侵攻を始めて、半年が過ぎました。

 

西側諸国はロシアへの経済制裁を継続していますが、それと引き換えに世界的なエネルギー・物価高騰が深刻化しており、今後の方針については各国の温度差も指摘されています。

 

一方で経済制裁に加わっていない中国は、ロシアからのエネルギー輸入を増やしていたり、インドに至ってはマネーロンダリングならぬ“オイルロンダリング”で経済制裁の抜け道を作っているという疑惑も囁かれています。

 

こういった様々な思惑を抱えるプレイヤー(国々)の動きを見ていると、「囚人のジレンマ」を連想します。

 

囚人のジレンマとは、ナッシュ均衡というゲーム理論の概念を説明する、次のような思考実験です。

 

〔囚人のジレンマ〕
二人組の強盗が捕まり、別々の部屋で取り調べを受けている。

検察官からは、

  • 二人とも黙秘を続ければ証拠不十分で二人とも刑期1年
  • 二人とも自白すれば刑期は5年
  • 一人が自白し、もう一人が黙秘を続けた場合自白した者は無罪放免、黙秘した者は刑期10年

という条件が伝えられる。

 
この場合、自分は黙秘(共犯者との協調)と自白(共犯者への裏切り)のうち、どちらを選ぶと最も利得を最大化できるか?

 

整理すると、

【a.相手が黙秘した場合】
a-1.自分も黙秘すれば、刑期1年
a-2.自分が自白すれば、無罪放免 ←こちらがより軽い

 

【b.相手が自白した場合】
b-1.自分が黙秘すれば、刑期10年
b-2.自分も自白すれば、刑期5年 ←こちらがより軽い

 

このようにみると、相手が黙秘した場合と相手が自白した場合、どちらのケースにおいても自分は自白を選んだ方が、刑期はより軽くなることがわかります。つまり、【相手を裏切って自白すること】が、自分の利得を最大化する戦略となるのです。

 

それぞれの囚人がこのように、合理的に自分の利得を最大化する選択したならば、「二人とも自白」を選ぶことになり刑期は5年となります。

 

全体で見れば、「二人とも黙秘で刑期1年」がベストですが、相手の出方がわからない状況で各自の利得を最大化する戦略を選ぶときには、全体としての利益は最大化されないことになります。

 

「くり返し囚人のジレンマ」では採るべき戦略が変わる

この「囚人のジレンマ」が示すように、1回きりのゲームでは「裏切り」を選ぶ方が、自分の利得は最大化されます。ところが、ゲームが1回きりではなく何度もくり返されるものになると、とるべき戦略は変わってきます。

 

これは、「くり返し囚人のジレンマ」と呼ばれるゲームです。

 

〔くり返し囚人のジレンマ〕
プレイヤーがそれぞれ「協調」と「裏切り」のカードを持っており、合図と同時にどちらかのカードを出します。この時、

  • 二人とも「協調」を出したら二人ともに3万円の賞金が与えられる
  • 二人とも「裏切り」を出したら二人ともに1万円の賞金が与えられる
  • 一人が「協調」、もう一人が「裏切り」を出したら裏切った者に5万円の賞金が与えられ協調した者には何も与えられない

 
これを条件として、何度もくり返し、カードを出し賞金の合計額を競います。
(実験では、1試合200回×5試合の平均獲得点数が比較されました)

 

このような「くり返し囚人のジレンマ」において、最も個人の利得を最大化させるのは

  • 初回は「協調」
  • 2回目以降は、ひとつ前の回の相手と同じカードを出す

このプログラムであることが明らかになりました。

 

つまり、「自分から先に裏切ることはしないが、相手が裏切ったら、すぐさま自分も裏切り返す」という戦略です。

 

目先の利得のために相手を裏切り、しっぺ返しをくらうよりも、まずは相手との協調を選ぶ。しかし、もしも相手が裏切った時には反撃して、相手をつけ上がらせない。一度裏切った相手がその後、協調に戻れば、こちらも協調に戻る寛容さを持つ。この戦略が、くり返しゲームにおいては最強となるのです。

 

話をウクライナ情勢に戻します。

 

国と国との関係は「くり返しゲーム」です。「くり返し囚人のジレンマ」に基づき考えると、自国の利得最大化を合理的に目指すなら、裏切りは悪手です。

 

事実、国際協調を裏切ったロシアの4~6月期のGDPは5四半期ぶりのマイナスとなり、経済制裁の影響が影を落とし始めています。これからどのような形で
戦争が終結することになろうと、ロシアが今後、欧米諸国から技術や資本、部品を従前のように調達することは困難と見込まれており、ロシア経済の長期停滞は避けられない見通しのようです。

 

輪廻転生は「くり返しゲーム」

実験寺院 寳幢寺(ほうどうじ)僧院長の松波龍源さんは、釈迦が輪廻転生を説いた理由は「くり返しゲーム」により説明できると話されています。

 

輪廻転生は、釈迦が初めて唱えた概念と思っている人も多いかもしれませんが、実は釈迦のオリジナルではなく、古代インドに存在したバラモン教から継承されたものです。

 

釈迦はきわめてロジカルな人だったと言われていますが、そんな釈迦が、エビデンスもなく哲理的な深みもない輪廻転生をなぜ採用したのか。それは、輪廻転生という「くり返しゲーム」であることにしておけば、今世でも人と協調してよりよい生き方をしていく動機づけになると釈迦は考えたのではないか。このように龍源さんは話しておられました。

 

もちろん諸説あると思いますが、徹底的にロジカルだった釈迦の人物像を考えると、僕は龍源さんの説明が納得がいきます。

 

まずは相手と協調する。

 

もしも相手が裏切った時には甘んじて受け入れるのではなく、適切に対処する。

 

一度は裏切った相手が行いを改め、協調に戻った時には、ふたたび手を結ぶ寛容さを持つ。

 

国と国との関係や僕たちひとりひとりの人間関係を考えるとき、「くり返し囚人のジレンマ」は、ひとつの重要な示唆を与えてくれるものだと思います。